せっかく採用した人材がすぐに辞めてしまう…そんなことはありませんか?工務店で人材が定着しない要因のひとつに、教育制度が機能していないことが挙げられます。建築業界の昔ながらの教育方法は、若年層には受け入れられにくくなっているのです。工務店が人材育成に力を入れるべき理由や、建築業界において活用できる研修の方法などについて解説していきます。
先輩を見て学べはもう古い!
工務店など職人の世界では、かつては「見て覚える」ことが常識とされていました。しかし、その考え方はいまの若者には受け入れられにくく、現実的に効率の悪い方法でもあります。工務店においても体系的な研修の実施が必要とされているのです。
工務店が人材育成に力を入れる意味
若年層を中心とした人手不足が深刻化している昨今においては、人材を定着させることや生産性を向上させることが、工務店にとって急務となっています。工務店が人材育成に注力するべき理由を具体的に見ていきましょう。
人手不足の深刻化
国勢調査によると、大工の就業者数は2010年には約40万人でしたが、2015年は約35万人となり、さらに野村総合研究所による予測では、2030年には約21万人にまで減少するとされています。また、2015年には、60歳以上の大工の占める割合が約38.7%と4割弱を占めました。高齢化した大工の退職や廃業が進んでいく一方で、新たに大工を志す人材がさほど流入してこないことがわかります。熟練の大工からの技能継承が進まず、大工の人手不足が今後さらに深刻化することが見込まれているのです。人手不足や技能継承の問題を先送りせず、今から若手人材を確保し、人材育成に取り組む必要性に迫られています。
人材育成で生産性を向上させる
人材育成において、旧来のような「見て覚える」教育方法は、全員がそれで習得できるものではなく、非効率的です。一方、研修を実施し、社員の能力を高める体制を構築できれば、人材を適材適所に配置し生産性が向上し、人手不足の解消に大いに役立ちます。また、研修を行うことは社員教育に力を入れている企業としての評価から、求人への応募が増えることも期待できます。
人材を定着させる
人材の定着に必要なことは、適切な指導や成長に繋がる研修を実施することです。社員は自身の成長が望めない環境では、仕事へのモチベーションを失ってしまい、離職へと向かってしまいがちです。工事現場に放り込んで具体的に仕事を教えない、といったことは避けましょう。
研修前に行うこと
研修は人材育成の有効な手段ではありますが、ただやみくもに研修を行っても、期待していたような効果が得られないこともあります。研修による成果を上げるためには、自社の実情に即した内容とすることが必要であり、入念な準備が求められます。
教育方針を決める
研修を実施する前に、まずは中長期的な戦略に立ち、組織の将来像を見据えて、教育方針や育成目標を定めます。そのうえで、社員にどのような能力を求めるのか、部門や入社年次、職位ごとに人物像を明確にしておくことが必要です。教育方針や年次ごとの目標が決定されれば、育成目的に即した研修を設定していくことができます。
現状把握・現場から課題を聞く
管理層が求めるスキルや人物像と、現場の若手社員が身につけたいスキルは異なることもあります。そのため、管理層と若手社員の双方からヒアリングを行い、部門ごとの役割や個人の業務を含め現状を把握するとともに、現場の課題を拾いあげることが大切です。現場ですぐに解消したい課題が判明した場合は、研修などの教育により解決できるか検討しましょう。
目標設定
明確な目標を設定することで、部下の成長を促すことができます。目標は上司と部下が相談しながら決めていくことが大切です。目標設定を通じて、部下は自分が求められている役割を認識できるようになり、仕事へのモチベーションアップに繋がっていきます。
また、目標設定を行うときは「SMARTの法則」に則ると効果的です。SMART は、Specific(具体性)・Measurable(計量性)・Assignable(達成可能性)・Realistic(関連性)・Time-related(期限設定)の頭文字をとったもの。目標にはこれらの要素を盛り込むようにしましょう
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研修の種類
研修には、現場教育によるOJTと現場を離れて教育を実施するOff-JT、自己啓発を行うSDという種類があります。それぞれの特徴やメリット、デメリットについて解説していきます。
<研修の種類>
- OJT(現場教育)
- Off-JT
- SD(自己啓発)
OJT(現場教育)
OJT(現場教育)とは、職場内訓練と呼ばれるもので、上司や先輩が実務を通じて業務の遂行に必要な知識やスキルを教えていくものです。いままでの工務店の教育はこのOJTが中心でした。
<メリット>
- 自社の現場に必要な実践的な知識を習得させることができる。
- 個別指導が中心のため、個々に応じた教育が可能。
- 社内で育成するため、教育コストをかけずにできる。
<デメリット>
- 現場での実務を通じた指導になるため、体系的な知識を身につけにくい。
- 業務に直接関係する部分以外での専門的な知識が備わりにくい。
- 教育を行う上司や先輩の技量に研修の効果が左右されやすい。
Off-JT
Off-JTとは現場を離れて、主に外部の講師が実施する教育をいいます。
<メリット>
- 専門的な領域の知識を周辺情報も含めて、体系的に身につけられる。
- 現場の業務から切り離された環境で実施されるため、集中して習得できる。
- 一定の質が保たれた教育を受けられる。
<デメリット>
- 自社の実務と内容に乖離があると、実務に活かせないケースがある。
- 外部の講師に依頼するコストがかかる。
- 外部の機関が設けている数多くの研修から、どれを選択するか判断が難しい。
SD(自己啓発)
SD(自己啓発)とは、自発的な学習を促すものです。会社はセミナーの開催、外部セミナーや通信教育のあっせんや費用負担、資格取得費用の負担などを行います。
<メリット>
- 学習する内容や手段を広い範囲から選ぶことができる。
- 自分の好きな時間を学習に充てられる。
<デメリット>
- 強制力がないので挫折しやすい。
- 上司や先輩のアドバイスがない場合、学ぶべきこととは別のことを強化する可能性がある。
評価制度・振り返りの重要性
研修などの教育制度を整えても、スキルを適正に評価されなければ社員は不満を抱くものです。定期的に面談を行い、研修で身についたスキルや目標の達成状況などを確認し、評価してください。また、適正に定量的な評価が実施できるような制度を整えることも大切です。適正な評価を受けられることによって社員のモチベーションがアップすると生産性の向上に結び付き、ひいては会社の売上の増大にも繋がっていくでしょう。
工務店が行っているユニークな研修
工務店の中には、従来の枠にとらわれないユニークな研修を行っているところもあります。海外に目を向けた取り組みを行っている工務店や、人手不足の問題が顕在化する中、他社の人材育成に一役買っている工務店の事例を紹介します。
例えば、他社の大工を預かり研修を行うという取り組みです。社員大工や専属大工を擁する工務店が、社員大工がいない他社から新人を預かり、OJTによる研修を実施します。研修では、道具の使用方法や図面の読み方といった基本から、実際の躯体工事や内装工事まで大工の基本を学んでいきます。受け入れる工務店と派遣元の他社は、同じ団体に加盟していることが縁で実現しました。
まとめ
工務店の教育は、従来はOJT(現場教育)が中心でした。しかし「見て覚えろ」という状態では、しっかりとした教育を行っているとは言い難く、効率の悪い教え方であることは否めません。Off-JTと組み合わせて研修を実施することで体系的な知識を身につけながら、自社業務にあったやり方を身につけていくことができるでしょう。