費用を安く抑えるために下請け先がどんどん海外に移行している中、下請けが国内で生き残る道は「価格を下げる」か「自社が元請けになる」かの2択になってきています。もちろん中には、唯一無二の技術力を武器にして成功している下請け業者もあるでしょう。しかし、多くの下請け業者の現状は厳しいものです。今回は「下請けからの脱却」をテーマに、元請けになるメリット・デメリットをはじめ、元請けになるために必要な準備やタイミングなどについて解説します。
目次
元請けになるメリット
下請けから元請けになるメリットとして以下の2つが挙げられます。
- コストコントロールが容易
- 社外リソースを想定した受注が可能
法外な値段でなければ、元請けが利益を出しやすいいわば「言い値」で価格設定することが可能です。また、下請けに協力を仰ぐことで、自社の持つキャパシティー以上の受注をすることもできます。そのため、下請けでいるよりも元請けになった方が、利益や売り上げを出しやすくなるという点がメリットです。
コストコントロールが容易
元請けは、いわば依頼主と下請けの中間にいるため、依頼主に言い値で受注金額を請求しやすいというメリットがあります。例えば、下請け業者からの仕入れ金額や工賃に対して、利益を出したい分だけ上乗せすることもできますし、依頼主から「30万円でお願い」と言われた場合には、下請け業へ依頼する料金を抑えればそれだけ利益を出すことが可能です。
ただし、あまりに法外な値段を提示してしまうと、依頼主も下請け業者も首を縦に振ることはないでしょう。それどころか、最悪の場合契約を打ち切られてしまうリスクがあるので注意が必要です。信頼関係に傷が入るような行動は避けるべきでしょう。
社外リソースを想定した受注が可能
元請けの場合、自社で請け負いきれない数の発注を受けることも可能です。仮に自社では50の案件しか対応できない場合でも、下請け2社が100件ずつ対応できれば、トータル250件を受注することができます。自社だけで請け負うよりも多く受注できれば、それだけ利益も出しやすくなります。
元請けになるデメリット
元請けになると、自社と下請け業者の2社分の責任を負わなければならなくなります。下請け時代よりも利益は上げやすくなる一方で、責任の重さもまた何倍にも重くなるのです。
下請け業者がミスを起こした場合、一次的な責任は元請け会社にあるため、依頼元への謝罪を含めた補償なども元請け会社の仕事です。そして、謝罪の際に「下請けが起こしたミスでして…」という言い訳は通用しません。そのような姿勢は依頼元と下請け業者の双方に悪印象を与えるので、絶対に避けるべきです。
依頼元に迷惑をかけることになるため、下請け業者のミスはできるだけなくすように努める必要があります。下請け業者のレベルによっては進捗確認やクオリティ管理も徹底しなければなりません。しかし、自社業務と平行しての管理業務は負担が重いのも現実です。
そのため、下請け業者の選定は慎重に行いましょう。元請け会社の仕事を代行として下請け業者に依頼しているのに、その下請け業者の管理に多くの時間を割くのは本末転倒です。
下請け業者の仕事のクオリティがそのまま自社の評価に繋がります。下請け業者は「安く受けてくれるから」という理由ではなく、仕事面で信頼できる会社を選ぶようにしましょう。
元請けになるための準備
元請けになるためには下記の4つの準備をする必要があります。
- 顧客ニーズの変化を整理する
- 利益率の限界を決めない
- 固定費から広告宣伝費を捻出する
- 社員が辞めない組織づくりを行う
下請け時代と大きく変わるのが営業です。元請けになれば顧客に対して営業を行い、仕事を受注してこなくてはいけません。そのためにはまず、顧客のニーズを把握する必要があります。また。社員が離れていってしまっては仕事になりません。長く信頼され続ける元請けになるためにも、従業員との関係も含めて自社の土台を整えることが重要です。
顧客ニーズの変化を整理する
元請けは新規に顧客を確保しなければいけない状況にあるため、顧客ニーズの変化には敏感でいなければいけません。また、時代に合わせて変化する要望に合わせて柔軟に対応できるよう、自社体制も変化させていく必要があります。
すでに元請けとして仕事をしている会社であれば、古い付き合いの顧客もいるでしょう。しかし「付き合いが長いから」とあぐらをかいて顧客のニーズの変化を捉えようとしなくなれば、いくら元請け経験の長い会社でも信頼を落とすことは想像に難くありません。
特にこれから元請けになろうとしているのであれば、新規の会社であるため信頼も一から築いていかなければなりません。数ある元請け会社から選んでもらうためには、新規参入というのは不利な立場です。しかし、お客様のニーズの変化に合わせて自社体制を柔軟に変えることができれば、一気に信頼を勝ち得て長期の契約をしてもらえる可能性もあります。
そのため、元請けになるためにはまず、顧客のニーズを正確に把握することが必須です。また、一度把握したからといって安心せずに、ニーズの変化を敏感に察知し、それに合わせて柔軟に対応できるよう企業努力をする必要があるでしょう。
利益率の限界を決めない
利益率は「集客」そして「仕事のクオリティ」に直結します。利益が出なければ広告宣伝費がかけられず、広告が打てないため、集客が困難になります。また、資金繰りが厳しくなると仕事のクオリティにも影響が出かねません。
新規の元請け会社にありがちなのが、競合との差別化を図るために価格設定を下げてしまうことです。しかし、仕事を取りたいからと言って、あまりに低い価格に設定してしまうと、手元に残る利益が非常に少なくなり、ときには利益が出ないこともあり得ます。
お客様にとっては、安く良い仕事をしてもらえることは喜ばしいことですが、受注する側が身を削ってまで仕事を受け続けていては自転車操業に陥り、経営に余裕が無くなっていくでしょう。
また、資金繰りが厳しいと集客ができないだけでなくクオリティの高い仕事ができなくなってしまいます。もし労働対価に見合わない安い給料で従業員を雇っているのであれば、時期を見て辞めてしまう従業員も出てくるでしょう。技術者のクオリティが保証できなければ、いくら価格設定が安くても案件を受注することは難しくなってしまいます。
お客様は「安くて仕事が中途半端」な業者よりも「適正価格でハイクオリティ」な業者を選びます。そのため、固定観念で利益率の限界を決めてしまうことはNGです。事業が順調ならば、できるだけ粗利を出しておき、次の集客や日頃頑張ってくれている社員の労働環境を良くするために利益を使いましょう。
固定費から広告宣伝費を捻出する
下請け業者時代は、元請け会社から仕事をもらえていましたが、元請けになれば自力で仕事を受注しなければなりません。そのため、下請け業者時代には固定費の大半を人件費につぎ込んでいたかもしれませんが、受注のための広告宣伝費を捻出する必要が出てきます。
元請けとして売り上げを得るためには仕事の確保が不可欠です。そして仕事を確保するためには、元請けを始めたというアピールをしなければいけません。そのためには、広告を出したり営業したりすることが必要です。また、広告や営業にも費用がかかることは理解しておきましょう。
固定費を下請け時代と同様に使っているだけでは、広告宣伝費を捻出することはできません。元請けになると決めたのであれば、固定費の使用用途に無駄がないか見直して、広告宣伝費を捻出する努力が必要です。
社員が辞めない組織づくりを行う
社員が入れ替わり立ち替わりしている会社の場合、成果物の品質が落ちる可能性が高くなります。人手が足りなくなるとひとりが受け持つ仕事が多くなり、一つひとつの作業に時間がかけられなくなります。また、、新人に一から教育して一定のクオリティで仕事ができるようになったかと思えば退職されてしまい、また別の新人を一から教育して…といったことを繰り返していては時間的なロスも大きいです。
新人教育はもちろん重要ですが、そこにあまりに多くの時間を割いていると、受注した案件の進捗に遅れが出て納期に間に合わなかったり品質が落ちたりするという負のループが発生しかねません。 社員がすぐ辞めていくような労働環境では、品質保証の観点から依頼主からの信頼が落ちてしまうでしょう。そのため、社員が辞めない、仕事をしやすい組織づくりを行うことが元請けには求められるのです。
下請けから元請けになるタイミング
元請けになるタイミングの目安のひとつは「元請けの仕事が、仕事全体の半分を超えた」時点です。もちろんなろうと思えば明日からでも元請けにはなれますが、収入が0になる可能性が高く、現実的ではないでしょう。しかし、元請けの仕事が全体の仕事の半分を超えてから、という漠然としたタイミングを目標にしていては、なかなかその「半分」に届かず、そのまま下請けの仕事を続けざるを得ないことにもなりかねません。
そのため、元請けになるためには期日を決めておくことが有効です。また、期日とともに元請けの仕事が仕事全体の何%を達成しているのか、といった具体的な目標を決めておきましょう。「期日」や「具体的な目標」を決めることにより「この日までに元請けになるにはどうすればよいか」を逆算して、より詳細な行動指針を立てることができます。
ただし、期日までに仕事の割合を元請けの仕事100%にする必要はありません。最低でも50%、下請けの仕事を切ったとしてもなんとかやっていける程度に元請けの仕事が確保できていれば良しとするのがひとつの目安です。
まとめ
元請けになるためには明確な意思と具体的な準備が大切です。単に元請けになれたらいいのに、といった漠然とした状態を続けていてはいくら時間が経っても下請けから脱却することは難しいでしょう。
しかし、しっかりと下準備を行い、地道な営業努力を繰り返すことによって、元請けへの道が見えてくるはずです。まずは元請けになるための期限を決めて、具体的な目標に向かって計画を練ることから始めてみてはいかがでしょうか。