建設業界で問題となっているのは、人手不足です。特に問題なっているのが若者の就業率の低さです。このままでは未来の建設業界を担う人材が育ちません。建設業界の高齢化に伴い、引退する人がこれから増加することが分かっているなか、若者の雇用は喫緊の課題です。そこで本記事では、なぜ建設業界で人手不足が起こっているのか、また建設業界の魅力をいかに若者に伝えるか、採用のコツも合わせて解説します。
目次
建設業の若者離れの実態
建設業の若者における労働力不足は統計を見ると分かります。国土交通省の「建設産業の現状と課題(2016)」によると、29歳以下の建設業就業者11%です。この統計が表すように、現在の日本の建設業界は若者の労働力人口が伸び悩んでいるという問題に直面しています。
全産業において29歳以下の若者が占める割合が16%であるのに対し、建設業界は明らかに低いという現象を踏まえ、いかに若者が建設業に従事することに危惧を感じているのか、しっかり把握する必要があると言えるでしょう。
現在の建設業界は60歳以上が全体の1/4を占めており、今後10年以内に大半が引退すると言われています。このままでは熟練技能者である高齢者から若年層への技術伝承が滞ってしまう恐れが出てくるでしょう。そのため、高齢者が引退を迎える前に若者を建設業界に迎え入れるための方策が喫緊の課題です。
建設業で若者離れが止まらない理由
建設業で若者離れが急増する理由としては、以下のような点が挙げられます。
- 雇用条件への悪いイメージ
- 「3K」のイメージ
- 収入が安定しない
- 体力的に続かない
- 教育方法が見直されていない
建設業の若者離れの原因は近年の少子高齢化という社会問題とも言えます。しかし、本当にそれだけが理由でしょうか。若者が建設業を進路に選ばない理由は、建設業界に対して何らかのマイナスイメージや危惧を持っているからだとも言えます。若者がどのような職場を期待するのか、またその期待に応えられる環境整備とは何かといった点を常に考え続けることが、今後の建設業界を支える若者を増加させるポイントになるでしょう。
雇用条件への悪いイメージ
建設業は平成29年から建設業者の社会保険加入が必須になりました。しかし、それ以前は社会保険や福利厚生などの精度が整っておらず、雇用条件は他業界と比べると決して良いものではありませんでした。雇用条件は職業選択をする上で重要なため、不安定な社会保障では働き続けることができるかといった不安に陥るのは当然のことです。
また、残業や勤務時間の多さも雇用条件のイメージを悪くする要因です。厚生労働省による建設業従事者の労働時間調査によると、全業種の所定外労働時間は132時間なのに対し、建設業界では平均160時間でした。一方、所定内労働時間は建設業業界が1,918時間であり、全業種では1609時間となっています。 所定内労働時間、所定外労働時間ともに建設業界は全業種平均を大幅に上回っています。所定内労働時間の多い理由として、週休2日の会社が少ないことが影響しています。また、所定外労働時間は、人手不足による一人当たりの業務量が多くなることや、短納期からくるタイトな工期によるものと考えられます。
「3K」のイメージ
建設業界は「きつい・危険・汚い」という、いわゆる「3K」と言われるイメージがついて回るのが実情です。肉体労働や高所作業など、過酷なイメージが定着しているため、若者が積極的に働きたいと考えない傾向が否定できません。
また、若者の職業に対する考え方や意識の低下ということも背景として考えられます。「3Kでも稼ぐためなら頑張れる」という意識を持つ若者が減り「収入よりもワークライフバランスを重視したい」という若者が増えています。実際に、企業は若年労働者が定着しない理由として「職業意識の低さ」を挙げています。
また、建設業は現場の移動に車を使うこともあるため、運転免許が必要です。しかし、特に都心部では電車移動で事足りるためか、積極的に運転免許を取得しない若者も少なくありません。そのため「3K」だけでなく、運転免許が必要となることも、建設業界で就業しようと考える意欲を失わせている要因だと言えるでしょう。
収入が安定しない
建設業の給与形態は、日給月給制をとるケースが少なくありません。そもそも建設業界は労働者を社員として採用する文化が浸透していなかった業界であり、自分の好きな時に好きなだけ働きたいと考える労働者が多かったことが背景にあります。そのため、日給月給制の習慣は現在も続いており、勤務日数が多ければ収入が上がりますが、逆に少なければ収入は減ってしまうのです。また天候によって急遽仕事がキャンセルになることもあります。
このような給与が安定しない状況では、長期的・安定的に働きたいと希望する労働者にとっては縁遠い職業になってしまうでしょう。また、日給月給制は、出勤日数が安定しないため、週休2日制の浸透が進まないといったことも影響しています。
体力的に続かない
建設業の離職理由のひとつに体力的な問題があります。長時間労働や業務量の多さで体力がないと長期的に働くことが困難と考える人は少なくありません。20代では難なくできていたことでも年齢が上がるにつれて不可能になることもあります。また、筋力の低下によりケガもしやすくなるでしょう。
現代の若者は、テレビゲームやインターネットの普及により、屋内で遊ぶことが増え、屋外で運動をする機会が減っているため、基礎体力のなさも離職の要因と言えるでしょう。
将来を考えると建設業界に身を置き続けることは難しいと考える層は、早々に業界を離れてしまいます。そして、転職するなら20代や30代の若い間が良いという一般的な背景もあるため、若者が建築業界から離れてしまうのも無理もないことと言えるかもしれません。
教育方法が見直されていない
若者と高齢者には価値観の違いがあることを考える必要があります。建設業は肉体労働を主とする業種なので、作業を体で覚えることが多いです。例えば、50代、60代といった高齢層であれば上司や先輩から厳しいことを言われながらも地道に仕事を覚えたというケースもあるでしょう。この経験が良かったと考える人ほど、若者に同じ対応を求めがちです。
しかし、現代の若者は怒られるシーンが少なく、競争意識よりも皆で励ましあいながら頑張るという傾向があります。そのため、世代間の価値観の違いが浮き彫りになるのです。
まずは、若者に対して変化を求めるだけでなく、指導する側が考え方を転換してみることも重要です。
【採用のコツ】人が来ないと嘆く前に行うべきこと
建設業界の若者離れの理由を踏まえて、若者を増やすためのポイントとして以下のようなことが挙げられます。
- 若者の建設業に対するイメージの改善
- 企業独自の制度で企業イメージをアップする
建設業界の若者不足を補うためにすべきことは、既存の人材を育てること以外に新人の採用も重要です。特に公的な資格がなく学歴や職歴に関係なく就業できる点以外に、上記のような課題も意識しながら魅力を発信することが大切です。
若者の建設業に対するイメージの改善
若者の建設業に対するイメージの改善は重要と言えます。従来のイメージは、3Kや給料が安定しないといったネガティブなものです。このイメージが改善されない限り、若者が建設業について調べたり考えたりすることは期待できないでしょう。
現代の大学生が希望する進路を調査したデータによると、建設業は最下位でした。この結果は建設業に魅力を感じないことが明白です
また、就職を考える上で重要な要素を学生に尋ねたところ「やりがい」や「社内の雰囲気がよい」「福利厚生が充実している」などが挙げられました。この結果からも、いかに学生が職業に対して繊細な考えを持っているかがうかがえます。
こういった点からも、建設業界は若者が抱く職業における重要な要素を兼ね備えていることをアピールできるか、が焦点になります。これまで長く続いた業界のイメージやシステムを一長一夕に変えることは難しいとしても、包み隠さず社内の労働環境を伝えることにより、ミスマッチを防ぐことは可能です。伝えるべき内容やアピールポイントとしては、以下のようなことが挙げられます。
- 手に職がつく
- 建設物が完成したときの達成感を味わえる
- 福利厚生が整っている
- 勤務時間の管理がされている
- 教育体制が充実している
- 地域社会や人の役に立つ
さらに、現場見学会などで建設業にふれる機会がある若者ほど「物をつくる喜びがある」「将来発展しそう」といったポジティブなイメージを抱くようです。一方、見学会に参加しなかった若者は、従来の「3K」のイメージが浮かぶようです。口頭だけでなく実際の現場を見せることもイメージ改善につながると言えるでしょう。
企業独自のシステムで企業イメージをアップする
建設業に若者を振り向かせるには、企業独自のシステムをつくり、企業イメージを変えることです。企業独自の制度は他社にはない魅力がなければいけません。差別化をするために重要なことです。企業独自の制度は例えば以下のようなものがあります。
- 女性でも働ける環境をアピール
子育て中やシングルマザーの場合、長時間労働が不可能な場合も多いため、業務内容を切り分けて労働時間を短縮したり、女性に優しい社内設備にしたりしてアピールするのも良い方法です。
- 体力やライフステージに合わせたキャリアチェンジをアピール
体力面を理由に退職を余儀なくされる人も多い建設業ですが、優秀な人であれば別の業務で戦力として残る方法があっても良いでしょう。そのため、現場から遠ざかっても建設業界で働けるようなキャリアプランを構築することが大切です。
- 資格取得などスキルアップのサポートを行う
キャリアチェンジのためには企業側がキャリアプランの構築をしておくことが大切です。そのため、現場仕事と並行して、例えば事務スキル、営業としての交渉スキル、CAD操作スキルなどを学ぶ機会を与えることなどが重要となるでしょう。
資格取得をする場合は、公的機関の制度によって助成金をもらえる制度もあります。費用負担の補助をアピールし、キャリアのセカンドチャンスがあることを伝えられれば、企業のイメージアップにつながるでしょう。
まとめ
建設業界では特に若者の人手不足が叫ばれています。しかし、若者に建設業界の魅力をきちんと伝えられれば、若者の雇用は増加させることも可能ではないでしょうか。現実のものとするためにも、まずは建設業界全体で若者に伝わる業界のアピールをする必要があります。建設業界の未来を明るいものとするために、今こそ現実的な対策に乗り出す時期ではないでしょうか。