工務店の資金繰りが難しい理由~工面できない場合の改善方法と事例

「黒字倒産」が起こる理由を知っていますか?帳簿上は利益が出ていても、資金の収支を適切に管理していなければ、資金がショートして倒産することがあるのです。工務店は資金繰りが難しいといわれています。だからこそ、適切な資金管理は大切です。工務店の資金繰りが難しい理由を踏まえたうえで、資金繰り対策の方法や資金繰り表の作り方などについて解説していきます。

「資金繰り」はきちんと行えていますか?

資金繰りとは、売上など入って来るお金と、仕入れや経費の支払いなど出ていくお金を管理すること、すなわち、資金の流れの管理をいいます。資金に含まれるのは現金のほか、預金や有価証券などすぐに現金化できるものです。
工務店経営にて資金繰りが重要となる理由や、注意すべき資金繰りのパターンについて解説していきます。

工務店の資金繰りが難しい理由

工務店への工事費用の支払いは、通常、契約時の着手金、中間時の中間金、引き渡し時の残代金の3回に分かれるといった工程が発生するため、すべてが支払われるのは工事が完了してからになります。そのため、工事期間が長いと、全額を回収できるまでの期間も長くなり、仕入れ費用や外注費用などを立て替えておく必要があることが、工務店の資金繰りが難しい理由です。

<工務店の資金繰りが重要な理由>

  • 受注時に、取り決める支払い条件で資金繰りに問題は生じないのか確認する必要がある。
  • 前受け金に依存して自転車操業をしていると、利益が少なくても受注する体質になりやすく、さらに資金繰りが悪化する要因になる。
  • どんぶり勘定では実態と乖離する可能性があるため、各案件の入金時期や金額、粗利や、1カ月後、2カ月後の支払いに必要な金額を正確に把握しておくことが必要になる

こんな資金繰りをしていたら要注意

こんな資金繰りをしていたら要注意

工務店がこんな資金繰りをしていたら要注意というパターンを、例を挙げて説明します。

  • 金融機関から融資の審査を受けるとき以外は、資金繰り表を1ヶ月分しか作っていない。

2ヶ月、3ヶ月先の資金繰りを把握していないため、どの程度の資金が必要なのか予測がつかず、資金がショートする恐れがあります。

  • 個別現場ごとの粗利を把握せず、想定粗利と実際の粗利に差がある。

工事ごとの粗利を適切に把握できていないと、気づかないうちに、薄利の工事ばかりを受注している可能性があります。

  • 銀行に誤りのある資金繰り表を提出してしまった。

資金繰り表から経営者の計数管理能力を見られるため、銀行からの信用を失ってしまいます。

工務店経営の戦略

工務店経営の戦略~中小工務店が淘汰される時代を生き残るために

2019年9月3日

工務店の資金繰り対策の例

工務店の資金繰りには難しさがありますので、資金に余裕があるうちから資金繰りを明確にし、改善していくための対策を練るべきです。資金繰りは経営者の重要な業務のひとつになります。工務店の資金繰り対策の例として、以下の3つの方法を紹介していきます。

  • 入出金のサイクルを見直す
  • 資金調達の方法を工夫する
  • 管理の方法を変える

入出金のサイクルは臨機応変に

資金繰りを改善するために融資を受けて負債を増やしても、問題を先送りすることにしかなりません。まずは融資を利用せずに改善する策をとるのが先決です。
それには、入金を早めて、支払いを遅らせる方法があります。入金を早める方法は、たとえばこれまで「契約時10%、中間時20%、引き渡し時70%」という支払い方法であった場合、「契約時30%、中間時30%、引き渡し時40%」に、今後は変えて受注します。

また、支払いを延ばすには、資本面で体力のある企業に支払い条件を変更してもらうことが得策です。資金繰りが厳しくなってから支払い猶予を申し入れると、足元を見られたり、関係性が悪化したりするなどの恐れがありますので、まださほど資金繰りが厳しくないうちに、支払い条件の変更を申し入れましょう。

資金調達の方法を工夫する

資金が明らかに足りない場合は、資金調達を行うことが急務となります。資金調達は銀行融資以外にも方法があります。

<資金調達方法の例>

  • 銀行融資

銀行融資を受けるには案件管理表や資金繰り表を基に、いくら融資が必要なのか根拠を示すことが必要です。金利負担を抑えられますが、審査に1ヶ月ほどかかるため、時間的な余裕があるときに向いています。

  • ファクタリング

売掛債権をファクタリング会社に買い取ってもらう方法です。銀行融資を断られた場合にも利用可能で、売掛金の早期資金化ができますが、手数料がかかります。

  • 知人などに借りる

すぐに資金調達が可能となるケースもあり、返済時期や利子を柔軟に決められる一方で、人間関係にヒビが入ることもあります。

  • 資産を資金化する

事業に使われていない、利益を生み出さない資産が資金化の対象です。不動産やゴルフ会員権、営業権などの売却などが挙げられます。

管理の方法を見直す

資金繰り対策として現状を把握し、今後、資金ショートを起こさないための方法として有効なのは、資金繰り管理方法の見直しです。資金の出入りを適切に把握できていない状況であれば、資金繰り表の作成は不可欠です。
資金繰り表を作っていない会社は意外と少なくありません。しかし、資金繰り表を作成することで、資金がショートしそうな事態に陥っている状況を事前に把握できるため、売掛金や資産の現金化を図ったり、支払い期日を交渉したりするといった、対策を早めにとることが可能になります。
資金繰り表を作成する際のポイントについて、解説していきましょう。

資金繰り表作成のポイント

資金繰り表を作成するには、ITシステムなどを導入する必要はなく、Excelで表組をして計算式を入れておく方法で十分活用できます。資金繰り表はひとつではなく、1日ごとの資金の流れを把握するための「日繰り表」と、毎月の資金の流れを管理するための「月次資金繰り表」の2種類の作成が必要です。
この2種類の資金繰り表の作成のポイントについて解説していきます。

日繰り表の作成

月次資金繰り表だけでは、事業資金が潤沢とはいえない中小工務店にとって、月内の資金の動きを把握するには不十分です。日繰り表を作成することで、月内で「いつ」「いくら」資金が足りなくなるのかを把握できるようになります。

日繰り表の作成

日繰り表を作成するには、まず、一行のセルに「日付」「摘要(内容)」「入金」「支払」「残高」と入れます。次に2行目に、作成を始める日の日付と残高を入力します。そして、3行目以降は前の行の残高から入金を足して支払いを引くための計算式を入れておきます。

その後は、現時点で決まっている入金と出金の予定を日付順に入れていく流れです。すると、残高がマイナスとなり、資金がショートすることが想定されるタイミングを、一目で把握できるようになります。

月次資金繰り表の作成

日繰り表だけではなく、月次資金繰り表も必要です。3ヶ月分の月次資金繰り表を作成し将来の資金繰りを予測することで、近い将来資金ショートを起こす可能性があるか、事前に把握できるようになります。 また、銀行などの社外に対して、資金が必要であると交渉する際の資料となるのが、月次資金繰り表です。月次資金繰り表では、以下の項目を詳細に理解することが可能です。

  • 資金不足でショートする可能性と理由
  • 売掛金の回収状況
  • 買掛金の支払い状況
  • 借入金の収支
  • 営業による利益と経費の収支
  • 設備投資の予定

さらに、将来の資金繰りの予測のための欄だけではなく、実績を入力する欄を設けて、毎月、資金繰りの予測が正確であったか検証することが必要です。予想と実績が大きく乖離した場合は原因を検証することで、より正確に資金予測を立てられます。そして、安定した経営基盤を確立して事業運営を行うことが可能になるのです。

日繰り表の作成

前月繰越高を確定

月次資金繰り表の作成を始める時点で、前月から繰り越された現金、受取小切手、預金残高の合計額を算出し、前月繰越高を確定します。

実際のキャッシュの流れから当月実績を記載

当月の実績の列に、損益計算書や貸借対照表などの経理資料をもとに、実際の入金と出金の流れを入れていきます。

次月以降の収入・支出予測項目を記載

次月以降の収入と支出の予測を入力していきます。収入の項目は「現金売上」や「売掛金回収」、「手形の期日取立」、「前受金」などです。支出の項目は「現金支払」や「買掛金支払」、「未払金支」、「支払手形の決済」、「人件費」、「経費」といったものが該当します。経費は正確に予想するのは困難なため、平均的な数値で入れていきます。

収入と支出の予測項目を記載していくにあたっては慎重な判断が求められるため、収入は控えめな数字とする一方で、支出は多めに算出するのがポイントです。また、「月末になったら、○○社からの入金があるから問題ないだろう」といった甘い予測をしないことも大切です。入金は少し遅め、支出は早めのタイミングで発生すると予測しておきます。

借入金返済など財務収支を記載

返済予定表などからに財務収支の項目に、借入金の返済額を入力します。

月次資金繰り表の作成を行い、毎月、「計画・結果・原因分析・対策」のサイクルを繰り返すことで、資金のショートによる倒産といった財務面のリスクを大幅に軽減することができます。また、月次資金繰り表を作成することで、融資を受ける必要がある時期を適切に判断できるとともに、銀行への説明資料とすることも可能です。さらに、設備投資を実施する適切なタイミングを掴むなど、安定した経営基盤のもとで事業運営を行う体制の構築につながります。

まとめ

工務店は資金繰りが難しいといわれていますが、資金繰り表を作成することで、資金がショートしそうな状況を早めに把握して、必要な対策をとることができます。受注状況が良好であっても、入金と支払いのタイミングによっては資金繰りが厳しくなるケースもありますので、まずは資金繰り表を作成して、現状把握に努めましょう。

お問い合わせ
お電話によるお問い合わせ
TEL:072-943-6881
営業時間 平日 08:30 - 17:30
WEBによるお問い合わせ