25年ぶりに建設業法が改正されました。今回の改正では、建設業における働き方、現場の生産性、持続可能な事業環境という3つの観点から見直されています。しかし、具体的にどのような点が変わったのかわからない人もいるでしょう。本記事では、改正建設業法の背景と改正ポイントを解説します。建設業界が大きく変革する可能性がある今回の改正について、知識を深めておきましょう。
目次
建設業法とは

「建築業法」とは、1949年に公布・施行された建設業に関する基本的な法律です。建設業法に規定されている主な制度としては、以下の通りです。
- 建設業の営業許可制度
- 建設工事の請負契約に関する、契約内容の義務化、一括下請負の禁止等
- 主任技術者および監理技術者の設置等による施行技術の確保
- 建設業者の経営に関する事項の審査
建築業を営む者の資質の向上を図り、建設業の健全な発達を促すものであり、建設工事の適正な施工の確保、発注者の保護、建設業の健全な発達の促進を図ることとされています。つまり、手抜き工事や中抜き工事を行わないようにするための法律なのです。この法律の中には、建設現場に専任しておかなければならない資格についても触れられています。建設業関係の仕事をする際には、避けて通ることができない法律です。
建設業法改正の背景

建設業は、携わる人の資質向上や健全な発展のために重要な役割を担っています。
しかし、建設業は、全産業と比較して長時間労働が常態化しており、休日の取得状況においても、週休2日もとれているケースは少ないため、職場環境改善や工期適正化などの働き方の改善が課題となっています。
また、建設業では就業者の高齢化や若者の入職者の減少により、将来の担い手不足が懸念されています。建設業における就業者の割合は、55歳以上が約34%に対して、29歳以下は約11%に留まっており、現場の高齢化と若者離れが進んでいます。そのため、建設業が今後も重要な役割を果たしていくためには、現場の生産性向上を促進する必要があるのです。
さらに、建設業者数は地方部を中心に減少化が進んでいます。そのため、建設業が国内全体で活躍していくためには、就労環境の整備や人材確保・育成などの仕組みを構築し、日頃のインフラ整備や災害時の復旧及び復興を担う「地域の守り手」として活躍する人材を確保する必要があると言えるでしょう。
建設業法改正のスケジュール

建設業法の改正案は、2019年6月5日の参議院本会議において全会一致で可決・成立し、2019年6月12日に公布されました。施行日は3段階で設定されています。
- 第1弾 工期の適正化(2019年9月1日より施行)
- 建設業従事者、建設業団体それぞれに課す新たな努力義務
- 適正な工期設定や施工時期の平準化といった公共工事品確法と関係する規定
- 第2弾 現場の処遇改善(2020年10月1日より施行)
- 著しく短い工期の禁止
- 工事現場の技術者の配置要件に関する規制の合理化
- 下請負人の主任技術者の配置が免除される特定専門工事等の改正
- 第3弾 技術検定制度改正(2021年4月1日施行)
- 技術検定制度の手数料の改正
- 検定種目名称、受験資格等の改正
建設業法3つの改正

建設業法は以下の3つの観点から改正されました。
- 建設業の働き方改革の促進
- 建設現場の生産性の向上
- 持続可能な事業環境の確保
建設業の働き方改革の促進
建設業の働き方改革の促進には、以下の2つのポイントがあります。
- 長時間労働の是正(工期の適正化等)
- 現場の処遇改善
建設業界は以前から長時間労働の常態化する一方で、現場で働く人の条件は改善されないままでした。そのため「長時間労働の是正」という観点で見直しが行われたのです。まずは、中央建設業審議会が工期に関する基準を作成するとともに、著しく短い工期での請負契約締結を禁止することが定められました。これにより、権限をもつ発注者から無理な工期で請負契約を締結することを回避し、建設業者の長時間労働を防ぐ狙いがあります。
また、公共工事の発注者に対し、工期の確保や施工時期における平準化を講じるための努力義務を課し、建設業者にとって仕事の確保や長時間労働の是正につなげるとしています。
一方「現場の処遇改善」の観点からは、建設業許可の基準を見直し、社会保険への加入が建設業許可を得ることを要件化しました。建設業許可あるいは新規に建設業許可を取得しようとする場合には、社会保険の加入が必須です。また、下請け業者に対して支払う代金のうち労務費相当分については、現金払いが求められることとなりました。
このような要件が設けられた背景には、経営状態の悪い業者や、従業員に対する意識が低い建設業者を排除し、労働環境を整備しようとする狙いがあります。労務費相当額の現金払いについても、従来は掛けや手形による支払いとなっていたため、回収まで何か月も費やすこととなり、下請け業者が資金繰りに窮してしまう状況が問題とされていました。建設業には一人親方の事業者も多いため、実際に働く人に配慮した改正と言えるでしょう。
建設現場の生産性の向上
工事現場の技術者に関する規制を合理化します。建設工事の現場における様々なトラブルに対応するために、これまで監理技術者と呼ばれる資格者を各現場に1人配置しなければならないという規定がありました。しかし、監理技術者を全現場に配置するのは建設業者にとって大きな負担となっていたのです。その対応策として、今回新たに技術士補の制度を創設しました。元請けに技術士補がいる場合には、監理技術者が複数の現場を兼任することが認められることとなったのです。
また、下請の主任技術者については以下の点を満たす場合は設置を不要としています。
- 一式以外の一定の金額未満の下請工事
- 元請負人が注文書の承諾と下請建設業者の合意を得る
- 更なる下請契約は禁止
さらに、施工不良が資材の欠陥が原因とする場合は、国土交通大臣は建設業者への指示に併せて建設資材製造会社に対しても改善勧告や命令ができるように変更されました。
持続可能な事業環境の確保
建設業の許可を得るために、経営業務管理責任者の要件を満たす者が役員に就任することが求められていました。しかし、経営業務管理責任者の資格取得には実務経験が最低5年必要とされ、人材を安定的に確保しておくことが中小の建設業者の場合は困難だと考えられます。また、設立間もない業者の場合は新規に建設業の許可を得ることができないといった問題もありました。
そこで、経営業務管理責任者の資格者の確保を軽減する狙いとして、経営業務管理責任者の要件を改正しました。経営業務管理責任者の要件を満たす役員がいなくても、事業者全体として適切な経営管理責任体制があれば、建設業許可の要件を満たせるようになります。
また、地方を中心に後継者がいない会社・事業者の増加を背景とし、円滑に事業承継できる仕組みを構築することにしました。これまでは、個人の財産は相続で、会社の財産は役員が交代することにより承継が可能であっても建設業の許可をそのまま引き継ぐことができませんでした。
そこで、合併や事業譲渡等に際し、事前許可の手続を踏むことで、空白の期間なく事業承継ができることとしたのです。
改正のポイント

建設業法改正のポイントは以下の3点です。
- 経営業務管理責任者の要件緩和
- 許可承継の事前認可制度が追加
- 社会保険の加入が必須化
経営管理責任者の要件の緩和
建設業の許可を取得する上で経営管理責任者の要件は最も高いハードルでした。ポイントは以下の2点です。
- 必要経験年数が6年から5年に変更
- 他業界での役員経験も一部認められる
従来は、許可を取得しようとする業種以外の業種についての経営経験が6年必要でしたが、許可を取得しようとする業種であっても他業種であっても一律5年に短縮されました。また、他業界での役員経験も認められるようになったのです。
ただし、建設業での役員経験は必ず2年以上は必要となりますが、建設業での役員経験が5年に満たなくても一定の条件を満たしていれば、他業界の経験を活かすことができる規定が新設されました。
許可承継の事前認可制度が追加
建設業者が合併、分割、事業譲渡等をする場合、一度廃業の届け出を提出した後に改めて許可を取得し直す必要がありました。その際、許可申請から取得までは数か月かかるため「許可の空白期間」が発生していたのです。
しかし、今回の改正法により、事前に申請認可を受ければ建設業の許可を承継できるようになりました。許可の期限は承継の日の翌日から5年間です。
社会保険の加入が必須化
もともと、社会保険への加入は絶対的許可要件ではありませんでした。しかし、未加入業者への風当たりは強く、未加入業者排除の動きが広まっていました。そのような背景があり、今回の改正で社会保険が許可要件となったため、未加入業者は許可を取得できなくなりました。各種社会保険の改正内容は以下の通りです。
- 健康保険や年金
- 法人:健康保険(社会保険)と厚生年金に加入
- 個人事業主:国民健康保険(建設国保も可)と国民年金に加入
- 雇用保険
- 従業員を雇用している場合は雇用保険への加入も許可要件
建設業法 改正 新旧対照表

今回の法改正の背景について、国土交通省は次のように述べています。
「建設業は、我が国の国土づくりの担い手であると同時に、地域の経済や雇用を支え、災害時には最前線で地域社会の安全・安心を確保するなど『地域の守り手』として、 国民生活や社会経済を支える上で重要な役割を担っています。
一方で、建設業においては、長時間労働が常態化していることから、 工期の適正化などを通じた『建設業の働き方改革』を促進する必要があります。
また、現場の急速な高齢化と若者離れが進んでいることから、 限りある人材の有効活用などを通じた『建設現場の生産性の向上』を促進する必要があります。
さらに、平時におけるインフラの整備のみならず、災害時においてその地域における復旧・復興を担うなど 『地域の守り手』として活躍する建設業者が今後とも活躍し続けることができるよう事業環境を確保する必要があります。
このため『建設業の働き方改革の促進』『建設現場の生産性の向上』『持続可能な事業環境の確保』 の観点から、建設業法・入契法を改正しました。」
要約すると以下の3点にまとめられます。
- 建設業の働き方改革の促進
- 建設現場の生産性の向上
- 持続可能な事業環境の確保
建設業法の新旧対照表は、上記の改正ポイントがどのように変更されたのかが対比しているので、参考にすると良いでしょう。
まとめ

今回の改正では、建設業における働き方改革の促進、現場の生産性向上、持続可能な事業環境の確保といった3点に焦点が置かれました。そして本改正の最大の狙いは「労働環境の改善」です。企業と個人が健全な業務を営むためには重要なポイントです。まずは日常の業務を見直し、効率化することから始めると良いでしょう。