建築業が加入する必要がある保険~社会保険と健康保険組合

建築業が加入する必要がある保険~社会保険と健康保険組合

国土交通省によって建設業の社会保険未加入対策が進められたことで、業界全体での社会保険の加入率は上昇していますが、社会保険には正しく加入していますか?建設業で社会保険に未加入の場合、仕事の受注に大きな支障をきたす可能性があります。社会保険の未加入で起こるリスクや加入対象の違い、必要な手続きなどについて解説していきます。

平成29年から建築業は強制的に社会保険の加入

平成23年10月の公共事業労務費調査では、2次下請や3次下請の労働者は、社会保険への加入率が4割程度と低い水準となっていました。そこで、社会保険への加入を促進するため、国土交通省によって、「平成29年度以降は社会保険未加入企業は下請に選定すべきではない」、「平成29年度以降、社会保険への加入が確認できない労働者は現場入場を認めるべきではない」という方針が打ち出されたのです。

社会保険に未加入だと起きるリスク

建築業の企業や個人経営の事業所、一人親方のいずれも、社会保険に未加入のままでいると、行政や元請業者から指導が入る、あるいは仕事の受注や求人に影響が出るといったリスクが生じます。社会保険未加入によるリスクについて、具体的に解説していきます。

行政や元請から指導が入る

社会保険へ加入していない場合は、国または都道府県から、以下のタイミングにて加入指導が行われます。

  • 建設業の許可の申請や更新のとき
  • 経営事項審査を受けるとき
  • 建設業の経営事項の審査の評点
  • 事業所への立入検査が実施されるとき

また、国土交通省からの通達により、元請業者からも契約時に社会保険の加入状況を確認され、加入指導が実施されます。さらに、社会保険への未加入が発覚して社会保険部局に通報されると、強制加入措置などが執られることもあるのです。

仕事の受注に影響が出る

公共工事の入札の際の経営事項審査では、社会保険への加入が審査項目のひとつになりました。また、公共工事の元請業者は社会保険未加入の業者を一次下請にできなくなっています。社会保険に加入していない場合、下請として選定するべきではない、工事現場への入場を認めるべきではないと国土交通省が方針を出していることからも、社会保険未加入の状態では、仕事の受注に大きな影響を及ぼすことが考えられるのです。

追徴金の発生や罰金

建設業に限らず、社会保険への未加入が発覚し強制加入となった場合は、最大で2年分まで遡って保険料が請求されます。本来であれば、社会保険料は従業員と折半になりますが、現実的に従業員から徴収するのが難しい場合、事業主が全額負担しなければなりません。また、悪質なケースと判断された場合は、6ヵ月以下の懲役あるいは50万円以下の罰金を科される可能性もあります。

求人にも影響がある

業界全体で社会保険への加入率が高まっているため、未加入の状態では、求人を出した際に入社を辞退されることが考えられます。また、ハローワークは無料で求人機能を利用できますが、社会保険に未加入であれば求人票を受け付けてもらえません。人手不足によって人材の奪い合いになっている昨今では、社会保険に未加入というのは人材の採用に著しくマイナスとなることが想定されます。

建築業で効果的な採用方法~求人内容の明確化で離職率を改善

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2019年9月6日

社会保険の加入対象条件と必要な対応

社会保険の加入対象条件と必要な対応

日本ではすべての国民がいずれかの公的医療保険に加入する「国民皆保険制度」が設けられています。また、20歳以上60歳未満で厚生年金保険に加入していない場合、国民年金の第1号や第3号被保険者となります。こうした社会保険の加入対象や加入手続きについて解説していきます。

社会保険の加入対象条件

社会保険の加入対象条件

株式会社などの法人に勤めている労働者は、雇用保険と健康保険、厚生年金保険の加入が義務付けられています。個人経営の事業所に勤めている労働者は、雇用保険の加入が義務付けられますが、健康保険と年金は常時使用されている労働者の人数によります。常時使用する労働者が5人以上の場合は健康保険や厚生年金保険の加入が義務付けられます。一方、常時使用する労働者が5人未満の場合、労働者が加入するのは国民健康保険と国民年金です。また、一人親方も国民健康保険と国民年金に加入します。

社会保険加入のために必要な対応

健康保険・厚生年金保険+雇用保険

株式会社など法人の場合、常時使用する労働者が5名以上の個人経営の事務所は健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所となるため、労働者は健康保険や厚生年金保険の加入対象です。雇用保険は法人と個人経営の事業所を問わず、一定の労働時間を超える労働者を雇い入れた場合、加入が義務付けられています。

<必要な対応や書類>

  • 健康保険・厚生年金保険

以下の届出を管轄の年金事務所で行います。

・健康保険・厚生年金保険新規適用届…健康保険や厚生年金保険に事業所が初めて加入するときに提出します。法人の場合は法人登記謄本や法人番号指定通知書等のコピー、個人経営の事業所では事業主の世帯全員の住民票が必要です。

・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届…従業員を新しく採用したときに必要です。

・健康保険被扶養者(異動)届…従業員に扶養家族がいる場合に必要です。続柄や収入を確認するための書類も用意して下さい。

  • 雇用保険

以下の届出を管轄のハローワークで行います。

・雇用保険適用事業所設置届…従業員を雇い入れることになったときに提出します。登記簿謄本の原本も必要です。

・雇用保険被保険者資格取得届…新しく従業員を雇い入れるときに提出します。労働者名簿や出勤簿、賃金台帳や労働者名簿などが必要なケースもあります。

国民健康保険・国民年金+雇用保険

常時使用する労働者が5人未満の個人経営の事業所の労働者や一人親方は、国民健康保険と国民年金への加入が必要です。また、一人でも雇い入れている場合は、法人も個人経営の事務所も雇用保険への加入義務があります。一人親方は労働者ではないため、雇用保険の対象とはなりません。

<必要な対応や書類>

  • 国民健康保険・国民年金
  • 国民健康保険と国民年金は本人が市区町村の役所や年金事務所などで手続きをします。
  • 雇用保険
  • 常時使用する労働者が5名以上の個人経営の事務所と同様に、事業主がハローワークで手続きをします。

また、常時使用する労働者が5名未満の個人経営の事務所でも、健康保険と厚生年金保険の任意適用事業所となり、労働者を加入させることもできます

必要な社会保険料(法定福利費)は元請けに請求できる

「国土交通省から発注者団体宛通知(平成24年9月13日)」によって、発注者は法定福利費を含んだ金額で契約することが義務付けられ、支払わなければ法律に抵触します。そのため、下請の事業主は「健康保険」「厚生年金保険」「雇用保険」の保険料のうち、現場労働者の保険料の会社負担分を元請に請求することが可能です。

請求しなければもらえない

法定福利費の金額は発注者にはわからないため、請求をしなければ入って来ることはありません。法定福利費は工事代金の一部ではあるものの、工事本体代金に含んで価格交渉の材料とされることがないよう、別枠明記して見積書を提出します。法定福利費を支払わないと建設業法に違反することから、請求することによって支払いを受けられます。

法定福利費を別枠明記した見積書を提出する

法定福利費として請求できるのは、当該の現場の労働者の会社負担分です。計算方法は、事業主が負担した法定福利費を日割計算し現場に入場した日数分請求する、現場入場した労働者の賃金を合計し事業主負担分の保険料率を掛ける、現場入場した労働者ごとの事業主負担分の保険料を合計する、といった方法があります。

国民健康保険と建築系健康保険組合の違い

社会保険のうち医療保険には、事業所単位で加入する協会けんぽや健康保険組合、個人で加入する国民健康保険や国民健康保険組合があります。ただし、常時使用する労働者が5人以上の個人経営の事業所や法人も健康保険被保険者適用除外の承認を受けて、国民健康保険組合への加入しているケースもあります。

月額保険料の違い

「協会けんぽ」と健康保険組合の「設計健保」は法人や常時使用する労働者が5人以上の個人経営の事業所が加入する被用者保険です。職域ごとの国民健康保険組合の「土建保」と「建設国保」、市区町村が運営する「国民健康保険」と合わせて、月額保険料の違いを表にまとめました。

月収設計健保協会けんぽ土建保建設国保国民健康保険
20万円9,550円9,960円7,800円14,400円11,601円
30万円14,325円14,940円11,700円14,400円17,453円
40万円19,577円18,924円14,820円14,400円24,141円

※建設国保は30歳未満で法人事業所の従業員の場合
※設計健保や協会けんぽ、土健保は従業員の負担額
※土健保は第一種組合員の場合

福利厚生の違い

設計健保と協会けんぽ、土健保、建設健保の特徴を福利厚生を中心にまとめました。

  • 設計健保
  • <全国設計事務所健康保険組合のおすすめポイント>
    ・直営施設に熱海リフレッシュセンターがある。
    ・他の健康保険組合との共同利用保養所も利用可能。
    ・直営施設は対象外ですが、宿泊費の一部を施設利用補助金として補助。
    ・コナミスポーツクラブやスポーツクラブNAS、ルネサンスなどが特別価格で利用可能。
    <特徴>
    ・設計事務所や建設コンサルタント業の事務所が加入。
  • 協会けんぽ
  • <全国健康保険協会のおすすめポイント>
    ・都道府県によっては独自のサービスを展開している。
    <特徴>
    ・政府管掌健康保険で、都道府県ごとに保険料率が違う。
  • 土建保
  • <全国土木建築国民健康保険組合のおすすめポイント>
    ・直営の厚生会館ホテルがある。
    ・委託休養所の利用料の補助がある。
    ・JTB・東武トップツアーズの提携するホテル・旅館の宿泊に補助がある。
    <特徴>
    ・事業主や役員、常用労働者などの第一種組合員と第二種組合員という区分がある
  • 建設国保
  • <全国建設工事業国民健康保険組合のおすすめポイント>
    ・全国各地の契約保養所を利用可能で利用補助もある。
    ・5000円相当の出産記念品を贈っている。
    <特徴>
    ・大工やとび、土木、造園、左官、板金といった建設工事業の従事者が対象
    ・保険料が年齢や加入資格によって一律で、収入が多くても保険料が上がらない。

まとめ

業界を問わず社会保険への加入義務はありますが、建設業では社会保険に未加入の状態では、仕事の受注に大きな支障をきたし、死活問題となります。また、若年層を中心とした人手不足の今、社会保険に未加入の場合、採用の足かせにもなりかねません。加入対象となる社会保険は事業主の形態によって異なるため、適切な保険にしっかり加入するようにしましょう。

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