リフォーム工事は多くの工務店で事業の柱のひとつとなっていますが、トラブルへの対応に頭を悩ませている工務店も少なくありません。リフォーム工事でよくあるトラブル事例や対処方法について解説していきます。
リフォームのトラブル・相談事例は増加傾向
独立行政法人 国民生活センターの報告によると、住宅のリフォーム工事によるトラブルは2008年以降顕著な増加傾向にあり、寄せられた相談件数は、2011年度で1万3,497件にも及んでいます。また、公益財団法人「住宅リフォーム・紛争処理支援センター」に2016年に寄せられたリフォームに関する相談は10,404件で、2008年の2,229件から約4.7倍もの件数となりました。
【引用】公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅相談と紛争処理の状況」
●参考:http://www.chord.or.jp/tokei/pdf/chord_report2017.pdf
工務店経営においても、リフォームでトラブルを起こさない体制を構築することが第一ですが、万が一トラブルに 発展した際には、トラブルにスムーズに対応するとともに、対応時の工数を減らす重要性が高まっています。
【事例多数】よくあるリフォームのトラブル
リフォーム工事によるトラブルを防ぐためには、よくあるトラブル事例を把握し対策することが大切です。
<よくあるリフォームのトラブル>
- 思っていたような仕上がりにならず不満
- リフォーム工事前に話した約束が守られていない
- 引き渡した後にトラブルが見つかる
- リフォーム工事中の近隣からの苦情
- 工事費用の追加請求に関するトラブル
思っていたような仕上がりにならず不満
打ち合わせや設計プランと仕上がりのイメージが違うというトラブルは多く見られます。理由は大きく分けて2つあります。
1つは、色の問題です。広い面積の方が色は薄く、狭い面積の方が濃く見えやすいため、お客さまがイメージしていた色と実際の色が異なるといったことがよく起こります。たとえば、壁紙はサンプル帳の小さなサンプルと壁に貼った状態では、色合いが違って見えるものです。
もう1つは、質感の問題です。フローリーングやタイルなどの質感は、カタログとは大きく異なることが多いため、メーカーからサンプルを取り寄せて、お客さまとともに色や質感を実際に確認することが大切です。
リフォーム工事前に話した約束が守られていない
お客様から打ち合わせや電話で話した約束が守られていないと言われることもよくあります。お客様から口頭で色の指定や変更をいただいても、プランに反映されていない、あるいは、反映している内容がお客様の認識と違うといったケースが該当します。打ち合わせ時に議事録を作成していない、詳細な契約書を結んでいないといった場合に、こうした“言った言わない”トラブルが起こりやすいです。
引き渡した後にトラブルが見つかる
リフォーム工事が完了して引き渡した後、工事をした箇所に不具合が生じていたり、キズが見つかったりするトラブルがあります。しかし、リフォーム工事の場合、元々キズがあることも考えられます。完了後に検査をきちんとしていない、完了後にお客様の立ち会いによる検査をやっていない、あるいは元々あったキズでありながらも証明できないといった場合、対応に苦慮することになります。工事の実施前に写真を撮っておく、お客様と一緒に現況を確認しておくといった対策をとっておきましょう。
リフォーム工事中の近隣からの苦情
リフォーム工事中、近隣からの苦情によるトラブルが起きることがあります。たとえば、休みの人が多い土曜日の朝から騒音を伴う工事をしてしまうと、苦情が寄せられやすいです。また、戸建てでは外壁工事によって臭いやホコリなどが発生し、窓が開けられない、洗濯物や布団が干せないといったクレームが寄せられることがあります。マンションでは音や振動が隣接住戸に伝わることも、よくあるトラブルです。
工事費用の追加請求に関するトラブル
最初にお客様に提出した見積書と引き渡し後に渡した請求書の額が違う、当初の予定になかった追加工事費用を請求されたといった、工事費用の追加請求に関するトラブルもよく起こります。前者は仕様を決める前の概算の見積書を提出後、仕様決定後の見積書を出していないことが要因のケースが多いです。後者は工事条件を見積書に記載していない、現場の状況から追加工事が必要になることを説明していないといったケースが考えられます。
【対処の方法】トラブルを起こさないために
リフォーム工事によるトラブルを起こさないためには、お客様と良好なコミュニケーションを取ることを心がけるとともに、書面による記録を徹底して残しておくのが基本です。事例に挙げたようなリフォーム工事によるトラブルを起こさない、クレームを発生させないためにするべきことのポイントを紹介していきます。
口約束をせず契約書を交わす
契約は口約束でも有効ですが、口約束でリフォーム工事を請け負うと、契約内容を巡ってトラブルに繋がりやすいため、必ず契約書を交わしましょう。契約書には工事箇所や工事範囲、仕様、工事条件などを詳細に記載しておきます。また、リフォーム工事では、現場調査を行っていても工事を始めてから想定していない不具合や劣化が判明するケースもあります。お客様に負担できる工事費用の上限を確認しておくとともに、追加工事や工事内容の変更が発生する場合の対応方法についても、契約書に盛り込んでおくことが必要です。
打ち合わせの記録を残し共有する
リフォーム工事での言った言わないによるトラブルは、書面での記録がないことが主な要因です。しかし、工務店側が打ち合わせ内容をメモしていても、お客様と認識に相違があるケースも起こり得ます。そこで、打ち合わせ記録を複写式の用紙などで作成し、打ち合わせの都度、控えをお客様にお渡しするのがおすすめです。また、電話で要望を聞いた場合には、メールに内容を記載して送るなどして、やり取りの証拠を残すようにしましょう。
近隣への挨拶を徹底する
リフォーム工事を行うことで、騒音や振動、ホコリなどにより近隣に迷惑をかけてしまう可能性があります。そこで、お客様と一緒に近隣へ挨拶にまわっておくことが大切です。リフォーム工事を行うことを知らせるとともに、工事の実施期間や音が発生する工事があればその時期などを説明します。挨拶の際の姿勢は必ず見られるものであると認識し、誠意を持って対応することで工事に対する理解が得られやすくなります。また、トラックなどの工事車両を路上に駐車するとトラブルになりやすいため、駐車場所を確保しておきましょう。
昼間の明るい時間に立ち合いする
リフォーム工事が完了したら、引き渡し前にお客様の立ち会いによる完成検査を実施し、不具合などがないか確認いただきます。完成検査は図面や仕様書をもとに説明しながら、内外装材や設備の色やサイズなど仕様に違いがないか、新しく設置した設備機器はスイッチを入れると問題なく動作するか、ドアや扉などはスムーズに開閉できるかといった点が確認いただくポイントになります。薄暗い時間帯に行うと、よく見えなかったといった理由から後からキズやトラブルが見つかり、責任の所在を巡ってトラブルになりかねないため、明るい時間帯を設定して実施しましょう。
実際のトラブル事例から見るケーススタディ
リフォーム工事で起きた具体的なトラブル事例3つを紹介します。また、こうしたトラブルを起こさないためにどのような対応を行うべきなのか、対処方法についても合わせてみておきましょう。
契約解除と返金を求められるケース
お客様の想定した工事内容や工事費用との違いから、契約解除と返金を求められるケースがあります。仕様変更への対応の問題で、返金に至った事例を紹介します。
仕様変更によるトラブル
お客様の想定した工事内容や工事費用との違寝室の壁紙の張り替えと、トイレと台所と洗面所、床の塩ビタイルへの張り替えリフォームを契約後、お客様から「猫が足を滑らせるため、台所寝室の壁紙の張り替えと、トイレと台所と洗面所、床の塩ビタイルへの張り替えリフォームを契約後、お客様から「猫が足を滑らせるため、台所と洗面所はコルクマットにして欲しい」と要望を受けました。しかし、既に塩ビタイルを発注済みであったため、脚立の養生用に持参していたタイルカーペットを台所と洗面所に施工。材料代に台所や洗面所の床の分の塩ビタイル代を含め、タイルカーペットの施工費を入れて請求したところ、当該分の返金を求められました。
契約書に仕様変更に関する取り決めを入れておかなかったため、発注済みの塩ビタイル代の費用について返金を求められる事態となっています。また、お客様の要望と異なる素材へ変更して施工する場合は、承諾を得て書面に残す必要があります。
弁護士への相談に至るケース
リフォームによるトラブルでは、当事者間での解決が難しく、弁護士への相談に至るケースもあります。リフォーム工事中の音を巡る近隣トラブルによる弁護士相談事例を紹介します。
工事中の騒音による近隣トラブル
リフォーム工事を行ったAさんとBさんの家は隣同士。リフォーム工事を開始してすぐに、Bさんから騒音について苦情を受けた際に、Aさんは一旦は詫びたものの、Bさんが強い口調で抗議していたこともあり、言い争いに発展してしまいました。気まずいままではいけないと感じたAさんは弁護士会が運営する仲裁センターに和解あっせんを申し立てました。すると、Bさんは事前の挨拶がなかったことに不信感を持っていること、Bさん宅には受験生がいることが判明したのです。
リフォーム工事を実施する前にBさん宅へ挨拶に伺い、工事日程を説明するとともに、工事時間に配慮すれば防げたトラブルといえるでしょう。
工事のやり直しが発生してしまうケース
お客様の要望を思い込みで理解してしまい、詳細の確認を怠ると、実際にはお客様の要望とは異なり、工事のやり直しが発生してしまうケースがあります。工事のやり直しが発生した事例を紹介します。
確認ミスによる工事のやり直し
仕様に関する打ち合わせを事務所で行った後、お客様から電話で建具の仕様変更について変更の希望があり、営業担当者が「次回の打ち合わせでカタログをお持ちします」と回答したものの、忘れていました。そのまま、工事は着工され、図面には建具の商品番号が記載されていなかったため、棟梁がお客様に確認。「ガラスの格子戸」と回答があったため、棟梁がカタログから選んで取り付けたところ、お客様のイメージと異なり、再度別の建具を発注して工事のやり直しとなりました。
問題は3点あり、まず、営業担当者が電話で受けたことを記録に残していなかったため、失念していたことと、営業担当者と棟梁のコミュニケーションが上手くとれていなかったことに問題があります。そして、そもそもお客様の希望された商品、あるいはご要望されているイメージをカタログ等で確認していないため、違う商品を取り付けてしまうという事態が起こりました。
まとめ
リフォーム工事に関するトラブルは、契約書を作成することや打ち合わせ議事録を残すこと、また、お客様への詳細な確認を怠らないことによって、多くは防ぐことができます。今回の記事で挙げたトラブル事例や対処法をもとに、トラブルやクレームの発生しない体制づくりを目指しましょう。お客様の満足度が高ければ、リピート受注につながっていきます。