政府が普及を進めているZEH住宅ですが、大手ハウスメーカーでは既に対応できる体制・商品が展開されているものの、工務店ではまだまだノウハウが浸透しきっているとは言えないのが実情です。工務店が今後もZEH需要に取り残されてしまうと、将来的に新築住宅の受注が難しくなるかもしれません。ZEH住宅の概要や仕様、政府の普及目標などについて解説していきます。
ZEHとは
ZEHとは、1年間の1次エネルギー消費量から、創るエネルギーを引いた収支がゼロ以下になる住宅のことを指します。ZEHの実現には、壁や窓の「断熱」、高効率家電の設置やHEMSによる電気の見える化やエネルギーの自動制御による「省エネ」、太陽光発電システムなどによってエネルギーを創り出す「創エネ」の3つが必要となります。
ZEH住宅の需要は拡大傾向
ZEH住宅の需要は今後ますます拡大していくことが見込まれています。経済産業省資源エネルギー庁では、ZEH住宅を推進する施策のひとつとして、2012年から「住宅・ビルの革新的省エネルギー技術導入促進事業(ネット・ゼロ・エネルギーハウス支援事業)」をスタートし、導入費用を支援しています。こうした支援策も後押しし、ZEH住宅の需要は拡大しており、2020年には20万戸という目標が掲げられています。
ZEHの普及目標
政府ではZEHの普及を促進するため、さまざまな数値目標を設定しています。2014年に閣議決定された「第4次エネルギー基本計画」では、2020年までに標準的な新築住宅でZEHの実現を目指すこと、さらに2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指すことが目標とされました。
ただし、2017年に閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」においては、2016年に閣議決定された「地球温暖化対策計画」と同様に、2020年までの目標については、ハウスメーカーなどが新築する注文戸建住宅の半数以上でZEHの実現を目指すことと軌道修正されています。これは中小の工務店などへの配慮によるものです。
また、「未来投資戦略2017」でも、2030 年までに新築住宅などの建築物について平均で ZEHあるいは創エネによって実質的に使うエネルギーをゼロにする「ZEB 相当」を目指すとされています。中短期工程表のKPI(経過目標)では、2020年の新築住宅の省エネ基準適合率を100%とすることのほか、ハウスメーカーなどの新築注文戸建住宅の過半数をZEHにすることがこちらでも打ち出されました。
国交省・経産省・環境省の連携による取り組み
ZEHの促進など住宅の省エネルギー、CO2の排出抑制に向けた取り組みは、国交省と経産省、環境省が連携して進めています。ZEH関連では、経産省は「将来のさらなる普及に向けて供給を促進すべきZEH」、環境相は「引き続き供給を促進すべきZEH」、国交省は「中小工務店が連携して建築するZEH」を推進する事業を展開。国交省はさらに省CO2化を進めた先導的な低炭素住宅として、ライフサイクルカーボンマイナス住宅(LCCM住宅)の推進も手掛けています。
これらの事業は、省エネ性能表示(BELS)の活用による申請手続きの共通化が図られ、関連情報の一元提供も行われています。
ZEH住宅の仕様
具体的にZEH住宅を建てるには、どのような設備が必要とされ、どの程度の断熱性能が求められるのでしょうか。創エネ・断熱・省エネの3つの定義からなるZEH住宅の仕様について解説していきます。
太陽光発電システムの設置
ZEHの定義のひとつ「創エネ」の要件を満たすには、エネルギーを作り出す装置の設置が不可欠です。再生可能エネルギーには、風力発電や地熱発電といった方法もありますが、導入コストが高いため、現時点で家庭で効率よく創エネができるのは太陽光発電システムとなります。また、太陽光発電システムで創エネしたエネルギーの供給は、敷地内に限定されています。
なお、売電した分の電力も供給したエネルギー量に含まれますが、全量買取方式ではなく、エネルギーの自立を図るという目的から、自家消費を行った残りを電力会社に売る余剰買取方式とされています。そのため、蓄電池を設置して、日中に発電した電力を溜めておくことで、太陽光発電で賄えない時間帯の電力をカバーすることが望ましいとされています。
断熱性能・気密性能の基準値
「断熱」もZEHの定義のひとつで、2つの要件があります。1つ目は、強化外皮基準という断熱性能の基準です。強化外皮基準はUA値という単位で示され、単位時間あたりに建物の内部から外部に逃げる熱量を住宅の外壁や屋根・窓といった外皮といわれる部分の面積で割った数値です。UA値が低いほど断熱性能が高く、ZEHでは省エネ基準よりも厳しいUA値が定められています。
強化外皮基準のUA値は地域によって異なり、北海道の旭川などの1地域や札幌などの2地域は0.4以下、盛岡などの3地域は0.5以下です。仙台などの4地域、新潟などの5地域、東京・名古屋・大阪などの6地域、宮崎などの7地域は0.6以下となっています。つまり、寒い地域ほど高い断熱性能が求められているのです。
2つ目の要件は1次エネルギー消費量を再生可能エネルギーなどで100%賄い、省エネ基準よりも20%以上削減できることです。
HEMSによる使用エネルギーの見える化
HEMS(ヘムス)は、「Home Energy Management System(ホームエネルギーマネジメントシステム)」の略称です。HEMSはエアコンや照明器具、家電などや、エコキュート、あるいはエネファーム、太陽光発電システムや蓄電池、スマートメーターなどとつないで使用します。使用している電気やガスのエネルギー使用量の見える化を図るとともに、各機器を制御してエネルギーの利用を最適化するシステムです。
HEMSの導入はZEHの要件ではありませんが、ZEH住宅では多くのケースで導入されています。エネルギーの使用量が見える化されることで、使用していない部屋の電気を消す、エアコンの設定温度を下げるといった節電への意識が高まり、省エネ効果が期待されるからです。
なお、2012年の「グリーン大綱」では、政府は2030年までに全ての住宅にHEMSを設置することを目標としていました。
ZEH住宅の単価
ZEH住宅は一般的な住宅と比べてどの程度の費用がかかるのか、明確な相場はありませんが、ZEH住宅の費用感をつかむうえで参考となるのは、過去のSII審査第二グループ長の発言です。2015年11月にSII審査第二グループ長は朝日新聞の取材で、「多くの家庭が、250万~300万円かけて実際にZEH化を達成している」と回答しています。ちなみに、これは消費者が負担する額での目安です。
SIIは経済産業省のZEHの補助金の公募や審査を行っている機関のため、ZEHにかかる費用が250万~300万円というのはある程度信ぴょう性のある数字と考えられます。お客様からZEH住宅にすると、どの程度、費用が割高になるのか聞かれたときに、目安として伝えるとよいでしょう。
ZEH需要に取り残されないために~中小工務店もノウハウの獲得を!
政府が進めるZEHの普及に向けて、大手ハウスメーカーではZEH住宅に対応した商品を展開するなど、すでにZEHの技術を確立しています。一方、地域密着で運営している工務店では、ZEHに関する技術やノウハウを持っていないところが少なくありません。2020年に20万戸のZEH住宅という目標を達成するには、工務店のZEHへの理解が不可欠となります。
政府の目標に沿ってZEHの普及が進んでいくと考えると、ZEH住宅のノウハウの習得は、工務店が新築住宅の受注を獲得するために必要となることが見込まれます。また、自社でZEHのノウハウがない場合には、外部のサポートを受けてZEHを受注できる体制を構築することも欠かせない選択肢となるでしょう。
まとめ
今後、ZEH住宅が当たり前となる日は遠くありません。ZEHの普及が進んでいく過程において、ZEHに強い工務店になることは他社との差別化になり、生き残っていくために重要なポイントとなるでしょう。外部サポートを受けることも含め、自社の強みのひとつとして、ZEH住宅に対応できる体制をいち早く獲得すべきです。