ゼネコンや工務店など建築業界は「ブラック体質」といわれることが多く、人材の定着や確保が難しい要因となっています。建築業界のどのような体質が、ブラックといわれるイメージを形成しているのでしょうか?建築業界がブラック企業と呼ばれる理由から、ブラック企業から脱却して人材の確保を目指す対策までを解説していきます。
建築業を辞めた若者の本音
地建築業を辞めた人は、どのような理由によるものだったのでしょうか。実際に建築業を辞めた人・辞めたい人の本音を集めました。
休日出勤の多さと職人との人間関係の疲れ
- 男性
- 年齢:20代
- 建築業の中での職種:施工管理
- 勤続年数:1年
本音
職人の中には刺青が入っている人もいるなか、無理な工程をお願いしたり、安全面で問題があったら注意したりしなければならず、鋼のような精神力がなければ持たない。ただでさえ残業や休日出勤が多い中、通常、9ヶ月かかる工事を6ヶ月でやるように指示され、全然休みもとれないこともあり辞めるに至った。
元請と下請の板挟みと労働時間の長さ
- 男性
- 年齢:20代
- 建築業の中での職種:営業兼施工管理
- 勤続年数:不明
本音
1日15時間労働で、休みは週1回とれればよいような状況。リフォームの現場を1ヶ月で30棟見たこともあった。工期の遅れや材料の手配ミスから追加工事費が発生すると、元請の責任でも負担させられるため、さらにそれを下請に負わせることになり、下請から文句をいわれて板挟みになるストレスがあった。上司の給料が自分とあまり変わらないことを知ったのをきっかけに退職。
パワハラ体質の職場で残業は日常茶飯
- 女性
- 年齢:20代
- 建築業の中での職種:設計
- 勤続年数:不明
本音
アトリエ系設計事務所で、かつては所長がスタッフを殴ったこともあったという。殴られたことはないが、物を投げつけられ、3~4時間にも及ぶ叱責を受けたこともある。また、多くのコンペに応募するため、明らかに無理な業務量を強いられ、徹夜も日常茶飯事。なかなか辞めさせてもらえなかったが、心身ともに体調を崩したため退職。
労働時間の長さと安全を軽視する姿勢への疑問
- 男性
- 年齢:25歳
- 建築業の中での職種:施工管理
- 勤続年数:1年
本音
地上50mの足場の上での現場作業は本来では安全帯を装着しなければならない。しかし、入り組んだところは安全帯を外さなければ入っていけない状況であったため、新たに足場をつくる必要があったが、安全帯を外すことを許容する雰囲気があった。そのため、安全帯を外して作業した人がボルトを落とし、他の作業員のヘルメットに当たるという事故が起きた。もともと、毎日、朝7時には出社して深夜に帰宅するまで14時間以上拘束される生活のため、3年間で辞めようと思っていたが、安全を軽視する業界の姿勢に疑問を感じ、一歩間違えれば人が死んでしまうという怖さから、1年で退職へと踏み切った。
残業や休日出勤の多さに見合わない低賃金
- 男性
- 年齢:30歳
- 建築業の中での職種:施工管理
- 勤続年数:7年
本音
大学を卒業して7年間、現場に常駐して施工管理の仕事をして来たものの、残業や土日出勤が多い割に低賃金のため、割に合わない。一級建築士を取得したため、施工管理の仕事を辞めて、県庁や市役所の建築部門などで働きたいと考えている。
建築業がブラック企業といわれる理由
建築業全体がブラック企業といわれる最たる理由は残業の多さですが、激務化してしまうのには、いくつもの要因があり、長年の習慣もそのひとつです。そんな建築業界がブラック業界といわれる理由について解説していきます。
激務で残業が多い・サービス残業も常態化
建築業界は残業が常態化しており、月100時間という会社は珍しくありません。しかも、残業代が一部しか支払われないケースも少なくなく、いわゆるサービス残業をするのが当たり前となってしまっている会社が多いのが実情です。また、残業が常態化しているのは零細企業に限らず、中堅や大手の企業も変わりません。さらに、いわゆる名ばかり管理職になると、役職手当がつく代わりに残業手当がつかなくなり、時給換算すると最低賃金よりも安くなってしまうケースさえ見られます。
残業が常態化しやすい理由について説明していきます。
短納期・短工期で激務化
建築業では通常、発注者から納期を設定されて発注されます。納期を守らないと損害遅延金が発生したり、違約金相当分が工事代金から差し引かれたりしてしまいます。また、納期に遅れたり、断ったりすると次から仕事がまわって来なくなることからも、短納期で短い工期しかとれなくても受注せざるを得ず、激務化してしまいやすいのです。
他社との競争過多で激務化
東日本大震災からの復興関連の工事や東京オリンピックに向けた建設ラッシュによって、建築業界は活況だといわれていますが、バブル期と比較すると工事の受注件数は半数ほどといわれています。そのため、競合他社との競争が激化しており、前述のように短納期の仕事でも受けなければならない要因にもなっています。社員にサービス産業をさせて、1人当たりの業務量を増やさなければ利益が出ない構造のため、激務になってしまうのです。
若者離れが進み人材不足で激務化
少子化による影響と若者の建築業界離れが進んだことで、建築業界は人手不足となっています。そのため、建築業界で多いのは40代後半~60歳の層で、現場での労働力が期待できる数少ない若手社員にきつい仕事が回されてしまいやすくなっています。すると、せっかく建築業界に入った若手社員が辞めてしまい、残された社員の仕事がさらに忙しさを増してしまうという負のループに陥るのです。
昔からの体育会体質
建築業界は昔ながらの古い体質で上下関係が厳しい会社が多く、長時間労働は当たり前という風潮があります。少しでも若手社員が不満を漏らそうものなら、「昔はもっと働いた」と口にする年配の管理職は少なくないのではないでしょうか。若い頃の自分たちのような働き方を求めるため、若手社員は帰りにくい状況になっています。しかし、そうした建築業界の体育会系体質が、人材が集まりにくい要因のひとつでもあります。
1人が負う責任が重い
建築業界がブラック企業といわれるのには、残業が常態化していること以外に、1人が負う責任が重いことも挙げられます。上司と現場の職人との板挟みになることもあり、特に大変とされる施工管理を中心に、なぜ責任の重さが負担になるのか解説していきます。
手抜き工事による施工ミス
施工管理の主な仕事内容は4大管理といわれるものです。
<施工管理の仕事内容>
- 工程管理…工期を守るため、工事全体のスケジュールを管理し、進捗を確認する。
- 安全管理…建設現場で事故が起きないように作業者が安全に作業できる環境を整える。
- 原価管理…人件費や材料費を管理し、予算内に抑えて利益が出るようにする。
- 品質管理…設計書通りの寸法や強度、デザインとなっているか、材料が適切に使用されているか管理する。
たとえば、工期が短いときにはスケジュールを詰めていかなければなりませんが、手抜き工事による施工ミスにつながるリスクがあるため、より品質の確保に留意する必要が生じます。
現場作業員の事故
現場作業員の重大な事故が起こった場合には、工事をストップして救急車の手配や警察への連絡をするとともに、作業員の所属する会社や家族、労働基準監督署などに連絡を入れます。工事を再開できるのは、報告書類の提出や再発防止策の策定を行い、警察や労働基準監督署の承諾を得られてからのため、工事は大きく遅れます。作業員への補償に関する対応も必要です。業務上過失致死傷の疑いから、警察や労働基準監督署の事情聴取を受けることも考えられます。一つの事故が起きると精神的に大きな負担となります。
上司と現場との板挟み
施工管理の仕事では工程管理や原価管理を行ううえで、自社の上司にも相談が必要なこともあります。職人に工期の調整などをお願いする局面では、上司と職人の板挟みにあうことも少なくありません。職人には気が荒い人がいて、嫌な顔をするだけではなく、威圧するような態度を取る人や中には殴りかかって来るような人もいます。しかし、萎縮してしまっては施工管理の仕事は務まらないため、毅然とした態度で臨むことが求められます。
ブラック企業からの脱却・退職者を減らす改善点
経営者や管理職の立場から、自社はブラック企業かもしれないと思い当たる節があれば、次に紹介するような改善を行うことをおすすめします。社内改革によってブラック体質から脱却することで、退職者の減少も期待できます。
休日を増やす・労働時間を減らす
ブラック企業からの脱却で重要なのは、ブラック企業認定される大きな要因となる長時間労働や休日出勤の是正です。労働時間を短縮し、休日を確保して増やせるように改善していくことが求められます。具体的な改善策について、次に紹介していきます。
働き方改革
働き方改革の一環として、時間外労働の上限規制が導入されます。大企業は2019年の4月から既にスタートしていますが、中小企業は2020年4月からは対象になるため、いまからでも対策は可能です。残業時間の上限は、月45時間・年360時間となりますが、臨時的な特別の事情があり、労使が合意した場合に限り、月100時間未満・複数月平均80時間以内、年720時間とすることは可能です。違反した場合には罰則規定があり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に課されることがあります。
<打開策>
- 経営トップが残業時間縮小・休日労働の削減を打ち出す
- 労働時間の目標を設定し、見える化を図る
- フレックスタイム制の導入やノー残業デーの設定など制度面の見直し
- 業務改善で無駄な業務をなくす
- 長時間労働を是とする管理職のマネジメントを変えて、成果を短時間で上げることを重視
ICT化を図る
建設業界はICT化が遅れているとされて来ましたが、大手企業ではロボットによる機械化施工を進める動きがあります。また、AIやビッグデータの活用による、施工の効率化も進められています。 中小の工務店では、こうしたロボットの導入や大規模なシステムの導入は難しいかもしれません。しかし、タブレットを導入し、現場での図面の共有や閲覧、メールの閲覧や返信、写真の撮影や整理などに活用するだけでも、現場と事務所の往復の手間や時間が省けるため、成果が出たという調査結果もあります。モバイル端末の導入を検討してみましょう。
昔からの体質からの脱却
建築業界の古い体質に対してストレスを抱えている人は少なくありません。たとえば、部下に仕事を教えることなく、自分で覚えていくものだという考え方や女性蔑視の男社会の風潮、縦社会の考え方などです。そのため、教育体制や女性が活躍できる環境の整備を求める声が多くあります。古い体質から脱却して若手社員にとっても魅力ある職場をつくっていくことが、人材の流出を防ぐとともに、新たな人材の確保にもつながっていきます。
責任・役割をはっきりさせる
施工管理はいわゆる現場監督で、本来であれば現場で実際の作業はせずに、4大管理といわれる工程管理や安全管理、原価管理、品質管理を行うため、指揮をとるのが仕事です。しかし、実際には現場の作業を日中は手伝い、夕方以降に事務所に戻ってから管理の仕事を行うことが常態化しているケースもあります。施工管理の仕事に専念できる環境を整えて、役割をはっきりとさせるようにしましょう。
まとめ
建築業界がブラック企業と呼ばれる理由の多くは、長時間労働や休日出勤の多さによるものです。その要因のひとつである古い体質からの脱却を図るとともに、タブレット端末の導入などによる業務効率化を進めていくことが大切です。建築の仕事ならではのモノをつくっていく楽しさに、やりがいを感じられるような環境を整備していきましょう。