若年層を中心に人手不足が深刻化する中、「思ったような人材を採用できない」「せっかく採用した人材がすぐに辞めてしまう」といった悩みを抱える工務店は少なくありません。また「建築業界はブラック」というイメージを持たれやすいことも、工務店の採用活動を難しくしている一因となっています。工務店における採用活動のポイントや、採用方法の種類、そして離職率を低下させるためにとるべき施策について解説していきます。
最適な採用方法を考える
リーマンショック時の職人離れや、若年層からの人材流入が少ないことなどが原因となり、建築業界では人手不足が深刻化しています。しかし、会社の継続や成長にとって人材は重要な柱となるものです。良い人材を採用していくためには、採用の考え方や方法を見直していく必要があります。
求人要件を明確化
求人を行うにあたっては、たとえば、「ハウスメーカーでの営業経験がある人」などといったように、どのような人材を獲得したいのか要件を明確化しておくことが必要です。要件を明確にしていないと、求人を出す段階や選考の段階でぶれてしまう可能性が高まります。
ただし、会社のビジョンの実現のために経営者が必要と考える人材と、現場が業務の遂行のために必要としている人材にはズレが生じるケースもあります。採用したい人物像の検討には、現場の意見も踏まえて考えることが大切です。また、希望するスペックをすべて兼ね備えた人材の応募を望むことは難しい場合もありますので、妥協できる点についても決めておきましょう。
希望する人材にアプローチできる採用方法を選別する
採用方法にはいくつもの種類があり、採用したい人材の属性による向き不向きがあります。不特定多数の人に求人を行っても効率が悪くなってしまうため、自社が採用したい人材のスペックを満たす層にアプローチできる採用方法を選択することが必要です。また、採用方法によって費用も異なるため、採用活動に掛けられる予算も明確化しておきましょう。
採用方法の種類
採用方法は、自社で直接アプローチする方法のほか、公的な機関や民間企業を活用する方法など、さまざまな種類があります。採用方法によるメリットやデメリットをはじめ、コスト面や建設業での向き不向きなどを紹介していきます。
自社サイト(採用サイトの作成)
自社のホームページに採用に関するページを追加する、あるいは、採用サイトを作成する方法です。ただし、求職者が検索エンジンで工務店の求人を探す際に使われる「工務店 採用」「建築 採用」といったキーワードで検索上位になるのは、基本的に大手の工務店やポータルサイトです。求職者に見つけてもらうには、「地域名+工務店」といったキーワードで検索上位になるようにSEO対策を行うことが必要です。
項目 | 内訳 |
メリット | 企業理念や社員の声など幅広い情報を自由に伝えられる |
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デメリット | 知名度が低い場合は閲覧に至りにくく、SEO対策が必要 |
コスト | ホームページの作成や改修コストが必要 新規で制作する場合20万円~が目安 |
建設業の採用に向き不向き | 継続的に採用活動を行う場合向いている |
学校の就職課や就職担当者を訪ねる
高校の就職担当者、専門学校や短大、大学の就職課などを訪ねて、求人票や会社資料を提出し、欲しい人物像などを伝えます。総務や経理を募集したい場合は商業高校や短大、営業や設計・施工管理は大学や専門学校・工業高校が向いています。地場の工務店でも新卒者の採用は可能ですので、まずは近隣の学校へ足を運んでみましょう。
項目 | 内訳 |
メリット | 自社に欲しい知識を持った人材の採用が可能 学校と信頼関係を構築すると、継続的に採用しやすい |
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デメリット | 複数の学校へ求人を出すのには手間がかかる |
コスト | 無料 |
建設業の採用に向き不向き | 向いている |
縁故や知人からの紹介
親族や知人、自社の社員から、自社に合った人材を紹介してもらう方法で、縁故採用やリファラル採用とも呼ばれています。工務店などの建築業界では、縁故による紹介は多く見られ、親和性の高い方法といえます。ただし、経験者を紹介してもらっても必ずしも優秀な人材とは限らず、自社のニーズとは合わない可能性もある点に注意が必要です。
項目 | 内訳 |
メリット | 知人などからの紹介のため安心できる |
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デメリット | 経験やスキルがニーズとマッチしているとは限らない 紹介者との関係によっては配慮が必要なケースもある |
コスト | 謝礼程度 |
建設業の採用に向き不向き | 向いている |
ハローワーク
ハローワークでは求人に対する人材紹介を無料で行っています。求人情報の登録はハローワークインターネットでも行うことができますが、初めて利用する際には管轄のハローワークに行って、事業者登録を行うことが必要です。実際に検索してみるとわかる通り、建築業界でハローワークを利用して求人を行っている会社は多いです。
また、ハローワークは職業能力開発センターと連携しているため、職業訓練を受けた人材の紹介を受けることも可能です。職業能力開発センターでは、木工技術科やインテリア設計施工科、建築設備科といった建築関係の学科も展開されています。
項目 | 内訳 |
メリット | 無料で求人を行うことが可能で、雇用する人材によっては助成金の対象になることもある |
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デメリット | スキルが高く、キャリアが豊富な人材の登録は少ない |
コスト | 無料 |
建設業の採用に向き不向き | 向いている |
紙の求人媒体
紙の求人媒体として、かつては有料の転職情報誌が販売されており、建築・土木系やドライバーなどの職種を取り扱う「ガテン」という専門情報誌もありました。いまでは求人媒体はWebが主流となり、有料の情報誌は姿をほぼ消しましたが、紙媒体は駅やコンビニ、ファミレスなどに置かれるフリーペーパーとして形を変え存在しています。フリーペーパーはエリア版として発行されていることが多いため、地域密着型の工務店の求人には向いている面もあり、場合によっては有効な採用手段となり得ます。
項目 | 内訳 |
メリット | 積極的に求職活動をしていない人の目にとまる可能性がある |
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デメリット | 採用に至らない場合でも掲載費用がかかる |
コスト | 媒体・原稿サイズによって費用が異なる |
建設業の採用に向き不向き | 地域による |
Webの求人媒体
Webの求人媒体の掲載は、昨今では採用活動の主流となっています。大手の転職サイトのほかに、建築系に特化した転職サイトもあります。Web媒体は紙媒体よりも掲載できる情報量が多いことが特徴です。転職サイトによる違いもありますが、社員の声や職場の雰囲気といった情報も写真付きで伝えられます。
項目 | 内訳 |
メリット | アクセスする人が多く、広く求人情報を周知できる |
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デメリット | 採用に至らない場合も掲載費用が必要 |
コスト | 媒体・原稿サイズ・掲載期間によって費用が異なる |
建設業の採用に向き不向き | 向いている |
人材派遣会社
人材派遣とは、人材派遣会社と雇用契約を結ぶ派遣社員が派遣され、派遣社員は派遣先企業からの指示を受けて働き、派遣先企業は派遣会社に派遣費用を支払うという形態です。派遣先企業と派遣社員の間には雇用関係はありません。
建築業界でも派遣社員を活用する会社は多いですが、同じ部署で同じ派遣社員を3年を超えて受け入れることは派遣法で制限されていることもあり、長期的に活躍する人材として育成するのは難しいです。ただし、直接雇用への切り替えには派遣会社への紹介料の支払いが発生しますが、双方の合意のもと、正社員に登用することは可能です。
また、一定の契約期間の満了時に直接雇用に切り替えることを前提とした、紹介予定派遣という形態もあります。派遣社員は正社員との間に壁があるとモチベーションが低下しやすいですので、ミーティングの参加などを社員と同じ扱いにするなど、存在を軽んじないように配慮しましょう。
項目 | 内訳 |
メリット | 必要な時期に欲しい人材を確保しやすい |
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デメリット | 自社の社員として育成できない |
コスト | 派遣会社のマージンを含め、「時給×労働時間」による費用を毎月支払う |
建設業の採用に向き不向き | 向いている |
人材紹介会社
人材紹介会社は転職エージェントとも呼ばれ、採用要件を伝えると、登録者の中から条件に合致する人材の紹介を受けられます。また、面接日程や入社日など候補者との連絡も人材紹介会社が代行してくれます。人材紹介は成功報酬型を採用し、無事入社に至った場合に紹介手数料の支払いが発生することが特徴です。人材紹介会社には幅広い業種や職種をオールジャンルで扱う総合型と、業種や職種、年齢層などで絞った専門特化型があり、建設業界に特化した人材紹介会社もあります。
項目 | 内訳 |
メリット | 手間を掛けずに条件に合った人材を採用しやすい |
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デメリット | 採用にかかるコストが高い |
コスト | 成功報酬型で、紹介手数料の目安は年収の20%~35% |
建設業の採用に向き不向き | スキルのある人材の採用に向いている |
離職率が低下する採用時のポイント
建築業界は、一般的に長時間労働や休日出勤が多いイメージから、ブラック企業が多いという印象が根強くある業界です。そのため、人材の採用にあたっては、そうした労働環境のイメージに対する不安払しょくを図っていく必要があります。
残業時間や残業代の基準を明確に記載
働き方改革が叫ばれている昨今では、残業時間や残業代の支払いは求職者が重視するポイントのひとつです。しかし、建築業界では、残業代の支払いをしていない、あるいは残業時間すら管理していない会社が少なくありません。求人を出す際には、所定労働時間を超えた場合に残業代を支払うことを明記しておくとともに、適正に残業代を支払うことで離職率の低下につなげていきましょう。
ホワイトな職場は仕事の悪い面も求人に掲載する
一般的にホワイト企業といわれる会社では、求人情報に仕事内容や職場環境、待遇などの良い面も悪い面も記載しています。一方、仕事内容に対して年収水準が高い会社は、成果報酬型であるなど、実態とかけ離れた求人内容であることが多く、ブラック企業であることも少なくありません。求職者にネガティブにとられやすい情報も正直に記載することで、就業後のミスマッチが避けられ、長期的な雇用につながりやすくなります。
スキル・モチベーションアップのための研修
「現場は見て覚えろ」という旧来からの仕事の教え方では、若年層はついてきません。モチベーションとスキルの向上を図り、人材を定着させるために適切な研修を実施するなど、社内の教育制度を整備することが大切です。
まとめ
採用難といわれている建築業界ですが、採用活動の進め方によっては人材の確保は十分に可能であり、定着率の改善も見込めます。採用要件を明確にし、多くの採用方法の中から自社に合った手段を選択しましょう。また、採用活動を機に、残業時間の管理や残業代の支払い等で不透明な部分があれば、適正に行なえる体制を整備しておきましょう。